人生の糧は人それぞれ

マンガ中心にたんたんと書きます。

文乃ゆき「ひだまりが聴こえる」

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出会えて本当に良かった。
本の前で手と手を合わせて頭を垂れたいです。


難聴で人を遠ざけてた航平が太一と出会い、常にまっすぐな太一に救われる話。
そしてその気持ちは恋となります。


【ネタバレ注意】

難聴は全く聞こえないわけではないけど、でも人より聞こえないというのが人に理解されにくく、航平をとても苦しめてました。
太一はいわゆる世間一般的な考えが通用しないというか気にしないというか、自分が見たもの、感じたものを信用してるので、航平に対して悪い噂があっても関係ないみんなと接するのと同じように接します。
そんな些細なことが航平にとっては大きなことで、このまま変わらず生きていくと思っていた暗い部屋に光が差します。


この作品は言葉がとても良くて、特に太一の言葉は本当に心に刺さる言葉が多くて、太一にとっては当たり前のことですが航平にとっては求めてた言って欲しかった言葉で、私も読んでてハッとさせられてとても感動させられました。
航平だけでなくその後登場する同じ難聴のマヤにも同様で、健聴者とちゃんと会話することを諦めてたことをしっかり気づいてあげて「お前はもう充分頑張ってる」という言葉に救われた気分になりました。


太一への気持ちに気づいた航平は何気に積極的に行動します。
強制合コンで太一の魅力が女子に気づかれないように横やりを入れたり、お弁当を家まで直接持っていったり。
そして私にとって今までで一、二を争う殺し文句のセリフがあります。
航平がマヤに気持ちを気付かれて言った言葉です。


太一に会えてよかった
太一に会えたから聞こえなくても俺は今の俺でよかったって思えたんだ
嫌なこともたくさんあったけど
こんな耳いらないって何度も思ったけど
でも太一に会えたからそれでもよかったって・・・

もしやり直せるって言われても
きっと俺はまたこの人生を選んだと思う
太一と会えて幸せだったから


あんなに難聴で苦しんだのに、それでも太一と出会えるこの人生をまた選ぶってこれ以上の言葉があるんでしょうか。
太一への強い気持ちが伝わってきて胸が締め付けられました。


大学を辞めることにした太一をひき止めずに送り出した航平は別れ際に手話で太一にメッセージを送ります。
その時は太一も読者の私も意味をまだ分かりません。
その後太一はある噂でとても動揺します。
そして偶然出会った航平から直接彼女ができたと聞いて、初めて自分の気持ちに気付きます。
「太一、好き」
手話の意味を聞いていた太一はあの時どうして航平のメッセージに気付かなかったのか後悔します。

クライマックス、太一は自分も航平が好きだと伝えます。
でも航平は疑います。
自分の耳が悪いから、ちゃんと聞こえてるのか、聞き間違えてるんじゃないのか、ちゃんと信じていいのか。
そんな航平に太一は何度も何度も「好きだ」と伝えます。

難聴という設定だからこそ出来るシーンで、この流れが本当にすばらしいです。
そしてこの作品のもう一つの魅力が情景描写、心理描写の秀逸さで、このシーンの良さを私の拙い文章力では伝えられずとても歯がゆいです。


その情景描写・心理描写が秀逸で私の好きなシーンがもう一つありまして、それはおじいちゃんが入院した時です。

両親の離婚をきっかけにおじいちゃんに引き取られることになった太一が幼い頃の思い出を語り始めます。
その語り口調がきれい過ぎないのでしゃべり方がリアルで、何気ない思い出もあったりしたのが良くて、なので両親が太一をどっちが引き取るか押し付けあいをしてる場面はその分つらく、航平から無事でよかったねと言われた時におじいちゃんの愛情が伝わるハンバーグの思い出の情景とおばあちゃんの言葉が重なっていって気持ちが溢れて涙流すシーンは、本当に頭の中でそういう映像を見てるみたいで感情移入してしまい泣いてしまいました。
太一は気にしてないかもしれませんが何気につらい家庭環境なんですよね。


ジャンルはBLなんですが、BL度がすごい高いわけではないので万人が見れる作品だと思います。
そこらへんの少女マンガより断然良質です。
太一が乙女よりウブなので赤面しっぱなしなのがかわいくて見てるこっちもドキドキです。
他のBL作品を見るのですが、おいおい展開早えーな、受け入れるの早って思うことが多々あるのですがこの作品はそんなことなく、もういっそBL的シーンがなくていいんじゃないかとまで思えてます。
(本当は見たいです。)


作品はまだ続いてまして、今は少し不穏な方向に進んでてとても心配してます。
幸せな二人が見れることを信じて続刊を待ちたいと思います。