人生の糧は人それぞれ

マンガ中心にたんたんと書きます。

緑川ゆき「蛍火の杜へ」

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夏目友人帳」で有名な緑川ゆきさんの短編作品です。
それを「夏目友人帳」のアニメ制作陣がこれまた見事に映像化しています。


【ネタバレ注意!】
出逢いは六つの時。
夏の時期のみに訪れるおじいちゃんの田舎の森で迷子になっていた竹川蛍はある青年に助けられます。
蛍は人と出会えた安心感で抱きつこうとしますが青年は頑なに触られないように避けます。
「人間に触れられると消えてしまう」
青年は狐のお面を被っていて、「この森に住む者」だとも伝えます。
名前はギン。
ギン曰くここは山神様と妖怪たちが住む森で、村人からは「入れば心が惑わされ帰れなくなる」「行ってはいけない」と言われていました。
おじいちゃんは昔、親友が森の中でお祭りがあって参加したが村が森の中でお祭りをすることはないのに不思議な話があったと語ります。
それでもお互いにお互いを興味を持った二人はそれから毎日森で会って遊びます。
その日々は蛍にとってとても楽しいもので、そしてギンの不思議な存在に惹かれていきます。
それから毎年夏に田舎に帰ると蛍はギンと会うようになります。
蛍は妖怪とも出会い、妖怪たちから口を揃えて言われます。「人間よ、ギンの肌に触れてくれるなよ。ギンが消えてしまう。」
ギンは妖怪たちに慕われていて、妖怪たちはギンに触れられる。
ある時ギンを脅かそうと木の枝にまたがっていた蛍は枝が折れて落下してしまいます。
それを見て助けようとしたギンは触ってはいけないことに気づいて手を引いてしまいます。
下の茂みがクッションになって無事だった蛍でしたが別のことで安堵します。
「ねぇ、ギン。何があっても絶対に私に触れないでね。」
年月は中学へと過ぎていきます。
成長が遅いギンに徐々に近づく目線。
女性へと成長していく蛍。
蛍はギンとの日々が夏だけでは物足りなくなっていきます。
そしてそれはギンも同じでした。
逢いたい。触れたい。
高校生になった蛍はギンから自身のことを聞かされます。
自分のようなもろくてあやふやな存在は忘れていいと言われますが蛍はそれでも時が二人を分かつまで一緒にいたい、「私のこと忘れないでね」と告げます。
そしてギンは蛍を妖怪たちが人を真似て開催している夏祭りに誘います。


とっても切ないです。
触れたいのに触れられない。
長い年月をかけて二人の気持ちが変化していく様をとても繊細に描かれていて、アニメではさらにじっくり表現されています。
同じ時を生きれないと実感した時のなんともやるせない感情が夏の床の間に横たわってうちわで顔を隠すシーンで表現されているのがとても素晴らしいです。
そして冬のギンに会えない時期にきっと蛍に気があるんだろう男の子がさしのべる手をギンに重ねて気持ちを吐露する場面は胸が締め付けられました。
ラストシーン、ハンカチなしには見れません。
こんなの設定勝ちです。
でもこのラストシーンに向けての過程が見事だからこそさらに引き立てられていて、緑川ゆきさんの手腕に脱帽です。
そしてアニメもその良さを十二分に引き出していて見事です。
夏祭りのシーンの音楽が好きで、少しアキラを連想される民族的で不思議な気持ちにさせられる音楽で、それが妖怪の夏祭りという未知の世界という意味でうまく噛み合っていてよかったです。
ラストシーンのピアノの音色も切なくて、それがまた涙を助長させます。
最近は派手なアニメが主流のような気がしますが、こういうじっくり魅せてくれる作品も必要だなと実感しました。